地球上で自閉症と言われている長男は、日本語はおろか地球上の言葉は全く話さない。しかも、それを頑に25年もの間続けている。
でも、宇宙語らしき言語はずっと話している。
というか、どこかと交信でもしているかのような、音の羅列や怪しい発音だ。
それを時々、小さかった次男は解説をしてくれていた。
「お兄ちゃん、お腹すいたってよ。」「お兄ちゃん、お外行きたいって。」
この子達は、多分同じ星から来ているに違いない。
長男の発する音は「ィヨヨヨヨヨヨ」「ギガギガギガ」「ギギャギキ、キキ」「ウッボ〜イ」「モア〜イ」などなど、何ともけったいな音ばかりだった。
特に「モア〜イ」は、「モア〜イ」と言いながら床や机に四つん這いになってツバを垂らして、よくもまぁこんな量出せるもんだと思うくらいに水溜りならぬツバ溜まりを作って遊んでいた。
それを見て、当時同居していた義母が「あっ!モアイしよる!」とあわてていたが、それを聞いて義弟が「モアイって?」と不思議そうにしていたことがちょっと笑えた。
いや、正確には「モア〜イ」ですからね(笑)。
長男4才の時、当時大学病院で担当だった小児精神科の先生に、言語の先生にも見てもらいませんか?と提案されて、小児科受診後に耳鼻科に回された。
その先生は割と有名な方らしかったけど、最初の印象はあまり良くなかった。というか、印象は最初で終わり。その後会うこともなかった。
訓練室のような部屋で、その先生はジッと長男を見て、「あぁ、君はそんな風に物を見るのか。」と一言いって、おもむろに私の顔を見た。
「お母さん、自閉症って知ってる?」と聞かれたので「ハイ。」と答えた。
そもそも私は独身の頃から障害を持った子ども達との関わりが多かったし、仕事でも関わって来た。
まさか自分が最重度の自閉症の子どもの親になるなんて思ってもいなかったけど。
その先生は長男を見ながらこう言った。
「この子はね、知能が低過ぎるから、一生話すことなんかないよ。」
それで、ここの受診は終わり。別に訓練もムダということで、二度と訪れることもない部屋となった。
でも、私は悲しくなんかなかった。むしろ関わらなくて良かったなんて思ってしまった。
何でだろう。話せなくったって不幸になんかならないという、何だか自分でもよく解らない自信(と言ってしまうとまたちょっと違うけど)みたいなものがあった。
当時から、長男の周りには長男を理解してくれる、困った時は助けてくれる人達をたくさん作りたいとの思いが一番強かったから、言葉の優先順位はそんなに高くなかった。
だからかな。家族の中で、私だけが長男のしゃべる夢を、未だに一度も見たことがない。
私はお母さん失格かなぁ・・・。
でも、その先生の言葉は嘘じゃなかった。むしろ大当たり!
長男はけったいな発音しかしないし、この発音が面白くて、家族みんなで一緒にけったいな音を言い合って遊ぶことが日常になっていた。
しかし、しかしである。
それが最近消えかかっている。いや、ほとんど無くなって来ている。
最近は「あー」の一本勝負で来るようになった。この「あー」の発音が実に感情豊かで、楽しいのか、悲しいのか、怒っているのか、「?」と思っているのか、確実に伝わってくる。
きっと忘れ始めている・・・気がする。宇宙語・・・。
地球生活も25年過ぎて、間もなく26年突入だから、地球に慣れて交信の必要もなくなったのかな。
そういえば、言語の先生の言葉も当たったけど、私の思ったことも外れてなかったよ。
言葉は今も話さないけど、全然不幸なんて思ったことないしね。