宇宙人と暮らせば

面白親父、自閉症男子、理系(宇宙系)男子と私の、周りとちょっと違う日々を綴ります。

ドライヤーが初めて天寿を全うした!

雪、雪、雪でございます。

みなさん、お元気でおすごしでしょうか?

 

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父が退院して来たその日の内に再び倒れ、それを支えて母は坐骨を粉砕し、それぞれに別の病院に担ぎ込まれて、姉と私は数日間の奮闘の日々だった。

けれど、お陰様で全員、今日も頑張って生きています。

 

ということで久々のブログ更新。やっと落ち着いてパソコンの前に座れた。

生きてることは凄いな。長男も生まれて直ぐに死んでいたかも知れないのに、今回も父と母は一緒に居なくなったかも知れないのに、今日も全員、地球上に存在している。

そのことに感謝しようと思う今日。

 

そんな中にして、唯一天寿を全うして存在を消したものがあった。

ドライヤーである。しかも、我が家では初めてのことだ。

 

朝方、旦那が「おおー!」と雄叫びを上げたので何事かと思っていたら「ほら、ほら!」と正にたった今使っていたはずのドライヤーを、私の目の前に差し出してきた。

更にスイッチを何度も入れてみせて、うんともすんともいわなくなってしまった事を確認すると「自ら壊れた初めてのドライヤーだよ!」と……。

 

自家用車は全て自ら壊れて緊急に買い替えたものばかり。けれど、確かにドライヤーは自然に壊れたものはお初だ。

「おぉー! 確かに!」と、ちょっと朝から二人で盛り上がってしまった。

 

もちろんというか、ドライヤーが不自然に壊れるというのは長男が絡んで来るんだけど、今回はそのお話。

 

長男は小さい頃から、機械、特に回るものが大好きで、エアコンの室外機などは我が家の場合、吹き出し口のあみあみな部分は邪魔らしく、自分の素手で一瞬のうちにバキバキに折ってしまって、満を持してあらわになったプロペラに、何時間もの間惹き付けられていた。

そのプロペラと逢瀬を重ねるためには、毎度家から脱走を繰り返さなければならない。

室外機の見栄えは最悪になるし、こちらも脱走の度に猛ダッシュで追いかけなければならないので、必然と外に続くドアやサッシ、窓などの内鍵が増えていった。

 

さて、ドライヤーというと、長男にとって空気を吸い込むファンやモーター、電熱線などは非常に魅力的らしい。ふと気付けばいつの間にかすっかり分解されている。壊される前に色んな所に隠してみるが、宇宙人は本来超能力があるらしい。恐ろしい程的確に場所を特定して探し出してしまう。困ったものだ。

 

もう一つ困った事に、家の近所に総合ディスカウントストアと言われる大型スーパーがある。

そして、そこにもあるのだ。ドライヤーの売り場というものが……。

 

最近はめっきりご無沙汰だが、そのドライヤー売り場を目指して脱走を重ねた時期があった。よくそのスーパーに連れて行ってドライヤー見学はさせていたが、そんなもんでは満たされないらしく、数秒目を離すと家から居なくなるので、こちらはトイレでさえ行くのは大変だった。

それでも一瞬の隙を狙って居なくなってしまうので、いつも私はそのスーパーに直行で駆け込む事になる。

 

初めてそのスーパーを目指して脱走した日は、長男は小学部の5年生だった。多分暑い日差しの頃だったような気がする(曖昧)

当然その日が初めてなので、私の頭の中ではまだその店がリスト入りしていなかった。

脱走に気付いて追いかけていると、長男の姿はないが、道路の途中に靴が履き捨てられていた。

あわてて回収して更に行くと、長男の半袖シャツが脱ぎ捨てられていた。困惑しながら回収し、また更に進むと、今度は長男のズボンが脱ぎ捨てられていて……。

その先は、頼む、それで終わりにしていてくれ! と願いながら追いかけていたが、遂に長男の姿を見つけられずに、ちょうど旦那も帰宅して来て、結局最後の手段を使うしかなくなった。

 

これで何度目だ? そう思いながら警察に電話したら、今しがた保護したから、派出所に来てね……と。

「あぁ、まただ」見つかった安堵とため息で迎えに行くと、毎度のようにバツが悪そうな表情をする長男に、毎度のように苦笑うしかない旦那と私。

 

おまわりさんの話しでは、そのスーパーに裸で入店し(パンツも履いてなかったと旦那は記憶していた)ドライヤーの物色を始めたらしい。

周りの人の驚きは想像に難くないが、それに気付いたパートのおばさまもそうだったろう。

しかし、大げさな反応も見せずに、さらりと「ちょいとちょいと!」と手招きして事務所に誘導してくれたおばさまの行動は、自閉症の息子にとって実にナイスな対応だった。

その後に警察に連絡となったわけだが、さすが特別支援学校の校区内店舗。本来完全に不審者だが、長男の様子からすぐに保護対象者と解って警察に届けてくれたらしい。

 

派出所の中のソファーでちょこんと座った長男は、「ミスターMAX」と店名入りの従業員エプロンをしていた。服の代わりに着せてくれたようだ。スーパーからの「要らないから、エプロンは処分して構わないよ」とのメッセージも、おまわりさんが伝えてくれた。

何だか暖かい気持ちになった。

 

家に帰った時はもうすっかり暗くなっていたので、翌日、長男を連れてスーパーを訪れ、お礼を言った。多分、その時現場に居てくれた人達だったと思う。「お母さん、大丈夫ですよ」と何度も言って下さった。

今後この子が来たら教えて下さいと、私の携帯番号を書き込んだ長男の写真を渡してお願いしておいたが、それから長男が脱走してスーパーに行くことがなくなるまでの数年間、ずっとインフォメーションの壁に、長男の写真を貼っていてくれた。

 

それからは脱走成功した長男が入店すると、直接私に電話してくれるようになった。店のドライヤーを分解して買い取ったものも多い。

ある時は、若い男性店員さんがずっと側で見ていてくれて「今日は壊さずに済みました。良かったです。偉かったです!」と、笑顔で長男の背中を察すってくれた。

ある時は、長男を探しながら店舗を訪れ、「今日は来てますか?」と聞くと「今日は見てませんよ」と返事が返って来たりした。

 

あの頃、いい関係でいて下さった店のみなさんには、今も感謝しています。

今はあの頃の店員さんも見かけなくなったけれど、長男も裸で道路を突っ走ることはなくなった。

月日が経ったんだなぁ。長男も成長しているんだなぁ。

 

さて、旦那は早速新しいドライヤーを買って来た。

もちろん、ミスターMAXで。

長男はまだ気付いていない。今回も、天寿を全う出来るだろうか。

壊さないように、また我々が最期まで守りきれるだろうか。

さてさて……。