春の空らしく柔らかい光が届くこの頃、花粉に悩まされる私のスマホに「最強運の持ち主誕生日ランキング」なるものが流れてきたので眺めてみる。
結果子供たちは最強運はないということらしいが、いやいや、彼らはなかなかの最強運の持ち主である。
だって、生まれてそうそう一度天国に行って、もう一度地上に戻ってきた長男と、大学生活も4年目に差し掛かる頃に難病にかかり、数ヶ月後に復活を果たした次男なんだから。
二人とも生死をかけて戦った頃は、世間は桜と新緑の美しい頃だったんだよ。
そんな命を取り戻して舞い戻ってきた長男は、次男のことが大好き。
ツンデレ兄とそれに寄り添う弟の姿は、知っている人たちの間では有名ではあるけれど、その光景も、弟の就職から今となってはなかなか見られなくなってしまった。
さて、そんな次男大好きツンデレ長男が、先日珍しくて面白い姿を見せてくれたと、長男が通う福祉事業所のスタッフさんから聞かせてもらった。
最近、長男は仕事をめちゃくちゃ頑張っていて、その報酬として近くのスーパーに行き、大好物の「芋けんぴ」を買うことがある。
事業所に戻ったら、大きなボウルに芋けんぴの袋を開けて、豪快に食べるのが至福の時間となっているらしい。
そして、またある日「芋けんぴ」獲得のために仕事を頑張り抜いた長男は意気揚々とスーパーに行き、芋けんぴを探した。
ところが、ない、ない、ない・・・
その日はスーパーの「芋けんぴ」売り切れの日だったそうで。
すると長男の目からは涙が溢れ、シクシクと泣き出したと・・・。
え?そんな姿、見たことないぞ?
シクシク???
いや、そういえば一度だけ見たことがある。
それは、次男が難病のギランバレー症候群を乗り越えて初めての帰省。
そしてまた帰京する時、次男を見送る長男の姿がそれだった。
彼は確かに、本当に悲しそうにシクシクと泣いたんだった。
その時、最重度の知的障害のある兄が、弟のことを想って泣いたことに気付かされたんだった。
あれ?
その話をスタッフさんから聞いて、私は旦那に
「次男と芋けんぴが並んだぞ」
と言ったのでした。
旦那爆笑。
長男は、悲しい時は耳をつんざくような奇声を発したり、ウォーウォーと吠えるような野太い声を出したり、それと同時に泣きながら私たちに全身全霊でぶつかりながら訴えてくることがほとんど。
そんな時は、親も怪我がつきものであったりもする。
弟の時も驚いたけれど、こうして吹き出していた感情を自分の中に納めて、静かに泣くことができるようになったんだね。
なんとそれを、芋けんぴが教えてくれました。
さて、そんな長男のお話をスタッフさんから聞いたその日、我が家の晩御飯は芋天となりました。
次男大好きツンデレの、芋大好き長男は、その食事に満面の笑みで挑んでくれたのでした。
それからというもの、時と場合ではあるものの、悲しみを「シクシク」と泣きながら自分の中で収めようとする姿が見られるようになりました。
君の感じる悲しみも、君を成長させるひとつの感情だったんだね。
そのことは、忘れないでおこうと思う。