宇宙人と暮らせば

面白親父、自閉症男子、理系男子と私の、周りとちょっと違う日々を綴ります。

ありがとう。

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長男は地域でも名の知れた大物だ。

長男の名前を聞いただけで、施設利用を何度もその場で断られている。

脱走、破壊、他害、自傷、何でもござれの長男を、そんなに易々と受け入れる施設などないと承知はしていた。

 

短期入所(短期の宿泊)などもっての他、何とか頑張って受け入れてくれた施設も、長くもって2年。

ほとんどの場合、もう支援は出来ない、この子がいれば職員をマンツーで付けなければならないし、そんな余裕はない、夜は眠らない、対応が難しい……と断られ続けた。

 

ただひとつ、強度行動障害者(激しい問題行動を起こしてしまう障害者)を積極的に受け入れているところだけが、今も断られることなくお世話になっている施設だ。

 

息子は睡眠障害もあり、なかなか眠らずにいて、夜中にみんなが寝静まると「しめしめ」と脱走する。

凄いことに、トイレの少ししか開かない窓から脱走したこともある。

まさにイリュージョンだ!

その執念は、親である私も感心するほどだが、夜中に脱走しても何もいいことがないと本人の学習が進まないままだったので、結局息子が熟睡するのを確認しなければ、私も就寝とはならなかった。

 

一番酷い時は、毎日私の睡眠時間は2時間を切っていた。

そこで支援センターの人が頑張って、定期的に強度行動障害者を受け入れる施設を利用できるようにコーディネートをしてくれた。

月に1度だけ、夕方6時から翌朝9時まで預かってもらう。

その時間、お母さんは寝てくださいね、と言われた。

しかし、月に1回だし、長男のいない隙に……とついつい普段できない片付けやら何やらやってしまうので、結局眠れないままで今に至っている(笑)

といっても、私も今は4時間は寝れるので、あの時期からするとかなりいい感じだ。

 

この自治体での障害者の短期入所は、余程の緊急でない限り、1泊のみと決まっている。

しかも、ニーズは多いが施設の数が少ないため、定員もいっぱいで、うちのような毎月1回の頻度で泊まれるのは、かなりのラッキーといっていい。

 

けれど、考えれば今も、福祉とはそのくらいしか回っていないのだ。

スタッフも施設の利用もいっぱいいっぱい。

それでも回して行こうとしてくれてることは、スタッフの努力以外にないと、知っておかなければならないと思っている。

 

何せ、それまでの施設では色んなことがありすぎた。

テレビを投げて壊した、壁に穴を開けた、ドアを破った、支援員の顔面をたたいて目をついてしまった……。

そんなこと、何回もあった。

親のいないところで、何度も暴れた。

その度に謝った。何度も何度も「すみません」と言った。

弁償をして、治療費を払った。

泊まる度に、大きなお金が必要になっていた。

その度に、心が折れた。

 

「有難うございます」と言いたいのに、それよりも言わなければならなかった言葉は

「すみません」以外になかった。

 

障害者専門の保険会社のお得意さんだったが「次は出ないかも知れません」とも言われたこともある。

でもその時、うちの味方について保険を降ろしてくださった、保険会社の担当者さんもいた。それはまた後日……。

 

そんな中に、やっと月に1度の宿泊。コーディネートの担当の努力も凄かった。

本当に本当に感謝した。

その施設では、スタッフが訓練されていたことと、まれに成功した破壊行動も、スタッフの落ち度だと弁償は請求されなかった。

そうして、かれこれ8年が経とうとしている。

息子は笑顔で施設に泊まりに行く。

相変らず、そこ以外には短期入所できる施設は増えていない。 

 

 

けれど、あのままどこにも親と離れて宿泊することができていなかったら、そんな場所がなかったら、さらに、こんな長男に向き合ってくれる人がいなかったら……。

私は、長男を残して死ぬことができない。

 

月に一度会う短期入所スタッフは、今や長男の理解者であり、我が家を支えてくれている。

大事なのは、施設に泊まることではなく、そのスタッフと人として関わる時間だ。

その時間こそ、私は大切にして行きたいと考えている。

 

そこのスタッフに、たわいない会話の中でこう言ったことがある。

「息子は脱走魔なので、いつ呼び出しが来てもいいように、もうかれこれ何年も、夫婦でお酒を飲んだことなんてありません。必ずどちらかが素面でいないと、直ぐに対応できないですから」

すると、そこのスタッフがみんな一様に

「ここに彼が来ている間は、夫婦で是非お酒も飲んでください。命に関わらない限り、呼び出すことなんてありませんよ。任せてください!」

と言ってくれた。

 

暖かい気持ちになった。

任せてください! という言葉が嬉しかった。

息子をお願いします……そう言って長男を預けた。

そして、その時の気持ちを言葉で伝えた。

 

「ありがとうございます」

 

私達親が死んだら、長男は誰かに託すしかない。

そのために出来ることは、周りに長男を理解して、愛してくれる人達を探し続けるしかない。

長男の名前だけで近寄らない人もいる。親の育て方が悪いからだと言う人もいる。

そうかも知れない。決していい親ではないから。

けれど、利用できる施設が限られているからと言って、長男を理解してくれる人達が少数であるとは思わない。

現実に、こうして関わってくれる人達がいて、その輪は、少なからずとも少しずつ増えている。

親が出来ることは少ない。でも、人との深い関わりが、長男をいずれ救ってくれるのだと信じている。